文部科学省の発表によると、2022年の全国の小中学校で不登校状態にある生徒の人数は、約29万9000人だったそうです。
不登校の生徒数は、この10年間、過去最多を更新し続けており、特に直近2年間では約10万人も増えています。
大幅に増加した要因は様々あるでしょうが、コロナ禍とそれに伴うオンライン化が大きな影響を与えたことは、ほぼ間違いないでしょう。
最近は、質の高い学習コンテンツもネット上にあふれていて「もはや通学する必要性はない」という意見もあります。これからの社会がどう変化していくかによって、子どもたちの学習環境も変えていく必要があるでしょう。
このようなことに関連して、アメリカで行われたある調査の話が頭に残ったので、紹介させてください。
ノーベル経済学賞の受賞者で、ジェームズ・ヘックマンというアメリカの経済学者がいます。
ヘックマン教授の調査によると、アメリカで普通に高校に通って卒業した生徒と、高校には通わず一般教育修了検定に合格した生徒を比較すると、後者のほうが後の人生の年収や就職率が明らかに低かったそうです。アメリカの一般教育修了検定というのは、日本でいう高卒認定試験のようなものです。
人間の能力は「認知能力」と「非認知能力」といわれるものに分けることができます。
認知能力は、主に学力や知能といった、試験や検査で測定して客観的に数値化できる能力のことをいいます。非認知能力は、意欲・忍耐・協調性・自制心などの、一般的に数値化しにくく、個人の性格的特徴が大きく作用する能力のことをいいます。
順調な人生を送るための条件として、もしも認知能力だけが重要な場合、同じ学力を持つであろう普通に高校を卒業した生徒と、一般教育修了検定に合格した生徒との間には、傾向としての大きな差は生じないはずです。
ヘックマン教授は、学力だけでなく、誠実さ・忍耐強さ・社交性・好奇心の強さなどの非認知能力こそが、人生の成功に非常に大きな役割を果たしていると強調します。
学校は単に勉強する場所ではなく、むしろ非認知能力を養う場所としての役割が強く、他の生徒や教師との人間関係を通して社会性を育むための適した場所といえると思います。
次に、もう1つ別の調査があります。
アメリカのプリンストン大学で約16年間の学長経験があり、経済学者でもあるウィリアム・ボーエン教授も、非認知能力の重要性を強調し、この方は当時のアメリカにおける大学生の中退率の高さに着目しました。
彼は、一体どんな学生が中退しやすく、またどんな学生が順調に卒業していく傾向にあるのかを調査することにしたのです。
まず、一般的にアメリカで大学に入るためには、SATと呼ばれる全米標準試験を受け、さらに高校の通知表を提出する必要があります。
ボーエン教授は、SATは学力という認知能力を測るものである一方、高校の通知表には提出課題の期限を守ったり、積極的に発言するなどの非認知能力の結果が多大に含まれていると考え、これらの大学中退率への影響を調べました。
すると、中退せず順調に卒業していく学生は、SATの成績が良い学生ではなく、高校の通知表が優れていた学生に多いということが判明したそうです。
この事実から、優れた成績を収める過程で獲得した誠実さ・他者との良好な関係を構築する能力・計画性・決断力といった非認知能力は、人生を成功に導く重要な要因であることが示唆されています。
社会で活躍するためには、クライアントや仕事仲間との関係・プロジェクトの遂行・問題解決・リーダーシップなどの多くの調整スキルが必要です。
最悪、認知能力が低かったとしても、人間的な魅力がある人のほうに人とお金は集まりやすく、できる人にお願いをすれば大抵のことは解決します。学力や知識だけでなく、非認知能力を伸ばすことこそが実際の社会での活躍に大きく貢献するといえるのではないでしょうか。