WBC独占配信が示すNetflixの戦略と未来

WBC独占配信が示すNetflixの戦略と未来

WBCの日本国内での独占配信権をNetflixが獲得したというニュースが話題になっています。次のWBCは、地上波での放送は行われないことが確定した形になりますが、これはまた一つ、日本の地上波テレビの先行きを占う大きな要素になるように思います。

世界的に進む「放送と配信の一体化」

これまでは、放送権はテレビで流す権利、配信権はネットで流す権利と分かれてきました。しかし、現在は世界的に「放送と配信の一体化」が進んでおり、米国ではすでに「メディア権」としてまとめて売る流れが主流になりつつあります。

他のスポーツイベントであるNFLやNBAなども同様で、NFLではAmazonが「Thursday Night Football」を独占配信するなど、従来のテレビ局ではなく配信事業者が直接契約を結ぶ例が見受けられます。NBAも次期契約ではAmazonやAppleが有力候補とされており、配信事業者の存在感は急速に高まってきています。

テレビ放送の影響力は下がり、配信が主役になりつつある時代変化の中で、一括で売った方が高額で契約が成立しやすく、権利元にとっても管理がシンプルになるというメリットがあります。

現時点では、詳細な公式発表がないため不明ですが、以下の二つの可能性が考えられます。

  • 権利元であるWBCIが放送権と配信権をセット販売した
  • 日本の地上波テレビ局が放送権の獲得でもNetflixに競り負けた

配信がもたらす視聴体験

このNetflixの独占配信は、視聴者体験の面でも大きな変化をもたらすでしょう。オフィスの昼休みや移動中、出張や旅行先でも、モバイル回線があれば場所を選ばずリアルタイム観戦ができます。

ライブ配信は番組選びが苦手な層や「流れているものをそのまま見る」というライトユーザーも獲得できる形式であり、WBCのような国民的スポーツイベントとの相性もバッチリです。

日本市場におけるNetflixの課題

視聴データによると、日本のNetflix視聴者層には海外と比較した場合、独特の傾向があるようです。

ここ数年は、Netflix内においても日本の地上波ドラマや既存アニメといったコンテンツの視聴回数の比重が高く、Netflix本来の強みである「オリジナル作品」が加入理由になりにくい状況となっています。

Netflixの日本責任者コメントとして、視聴上位は日本語作品が中心で、英語作品が首位を取った例はごく少数という報道があります。日本は「自国語コンテンツ志向」が強いのです。おそらく、海外と比べて英語を扱える人の割合が少ないことが影響しているのでしょう。

他サービスでも見られる作品が多いなか、Netflixでなければならない理由をつくるには、ライブスポーツのような希少性の高いコンテンツが有効です。日本人は野球好きな人も多く、WBCはその条件を満たしています。

地上波テレビ局と配信事業者の収益構造の違い

放送事業者側の経営事情の観点で考えると、広告モデルを主軸とする地上波テレビ局は、単発の放送枠に依存する収益構造のため、高額化する権利料の入札ではどうしても不利になりがちです。

その一方で、配信事業者側はサブスクによって比較的安定した収益を見込めるため、大胆な投資判断がしやすいです。ブロードバンド環境の整備が進み、大量の同時接続にも耐えられるサーバーインフラが整った現代では、配信側に有利な条件が揃ってきています。

Netflixの二つの狙い

私が個人的に思う、WBCの日本国内独占配信を決めたNetflixのこれからの狙いとして、以下の二つを述べたいです。

①野球好きな中高年層の取り込み

まず一つ目は、団塊の世代をはじめとする「野球好きな中高年層」の取り込みです。彼らは長年テレビで野球を楽しんできた世代であり、人口規模が大きく、経済的余裕のある方々も多いです。

しかし、若い人たちに比べるとサブスク契約やデジタルサービスには不慣れで「取りこぼされていた市場」でもあります。Netflixは、WBCのような大きな視聴欲求を持つコンテンツをきっかけに、配信に不慣れな世代をデジタルに引き込みたいのでしょう。

祖父母世代を入り口に家族全員で視聴する流れが生まれれば「常時一家に一契約」が定着する可能性もあります。一人暮らし世帯でも一度加入してもらえれば、不慣れがゆえに解約方法が分からなかったり、解約を面倒くさがってしばらくの間、月額料金を払い続けてしまう人も一定数存在するでしょう。

今回の決定は、Netflixが日本の市場全体を本気で取りにきた一つの挑戦と言えるかもしれません。

②ライブ配信分野への進出

二つ目は、Netflixによる「ライブ配信分野への進出」です。これまでアーカイブ配信が中心だったNetflixにとって、WBCのような世界規模のイベントをリアルタイムで配信することは、技術力を示す実証実験でもあります。

何千万規模の同時接続を成功できれば、スポーツだけでなく将来的には国際ニュースなどの報道分野にも進出できる。そうなれば、Netflixは単なるエンタメ配信サービスを超えて、英国BBCや米国CNN、ウォールストリートジャーナルのような「世界的な情報インフラ」へと進化し得ます。

すでに高い評価を得ているNetflixのドキュメンタリー番組制作との相性も良く、ジャーナリズム領域での存在感を強める可能性もあります。

もちろん、課題はたくさんあります。政治的中立性の維持、国ごとの規制や報道の自由の壁、突発的なアクセス集中への対応など、これらをどう克服するかが今後の成否を分けるでしょう。

それでも、もし乗り越えられればNetflixは「エンタメの王者」から「世界の必須プラットフォーム」へと飛躍できるかもしれません。エンタメ視聴に時間を費やす余裕のない世界のビジネスパーソンすら、解約できないサービスへと進化する未来を秘めているように思います。

今後へ注目

今回のNetflixによるWBC国内独占配信は、日本の配信市場における大きな実験と言えるでしょう。大会前後で国内の会員数がどう推移するのかは注目に値し、マーケティングの観点からも、他業種の企業であっても分析する価値のあるものとなるように感じます。

テレビ局は、番組制作力とIP(知的財産)を武器に、どの配信事業者と組んでやっていくかが生き残りの鍵になる。日本のメディア環境は、大きな転換期を迎えています。

Kenta

1992年生まれ、兵庫県在住。本業は個人事業主で、小規模団体の会計請負事業をやっています。ニュースや書籍を読むことが大好きなので、それらで得られた生き方に役立つであろう情報を皆さんとシェアできればと思います。

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