誰しも自分の考えを分かってほしくて、相手に説得を試みた経験があると思います。しかし、一生懸命に説明しても結局理解されず、残念な思いをしたこともたくさんあるでしょう。
説得とは相手を論理でねじふせることではありません。相手を尊重したコミュニケーションによって、相手の心を動かすことです。
自分の頭の中の情報を表に出し、正当性や共感を得たあと、相手の心をあなたの望む方向へ向けてもらうのです。
今回は、説得の際に意識すべき要素をまとめた「SPICE」という法則を紹介します。これはオックスフォード大学教授で心理学者のケヴィン・ダットン氏が「人をその気にさせる説得の公式」としてまとめたものです。
以下の5つの言葉の頭文字を取ってSPICE(スパイス)と呼ばれます。
- Simplify(単純化)
- Perceived self-interest(私的利益感)
- Incongruity(意外性)
- Confidence(自信)
- Empathy(共感)
では順番に触れていきます。
Simplify(単純化)
「Simplify」は、内容を可能な限り単純なメッセージにして、適宜、複数回伝えることです。
この手法は選挙戦のときによく用いられます。代表的な例としては、アメリカのオバマ元大統領の「Yes We Can」や、後任のトランプ元大統領も「Make America Great Again」というスローガンを好んで使いました。ちなみに「Make America Great Again」を最初に使用したのは、レーガン元大統領であると言われています。
日本でも小泉純一郎元総理が「自民党をぶっ壊す」「聖域なき構造改革」という分かりやすいスローガンを用いて、圧倒的な支持率を集めました。
私たちの脳は単純さを好み、メッセージがシンプルであればあるほど、とっつきやすくなります。まずはじめは、この手法を使って相手に関心を向けてもらいましょう。
Perceived self-interest(私的利益感)
「Perceived self-interest」は、聞き手の利益になるような話し方をすることです。
自分の考えをそのまま相手にぶつけるのではなく、この情報が「相手にどのように役立つか」を語らなくてはなりません。あくまでも自分目線ではなく、相手目線を意識します。
話の質や論理性よりも、相手がいかに得をするかを理解させなければ、納得してもらうことは難しいでしょう。
たとえば「新しい工程は、現在の工程よりも30%速いです」と言うよりも「新しい工程を採用すると、あなたは時間を30%短縮できます」と言いましょう。
「このコーヒーメーカーには、豆を挽く機能と内部を洗浄する機能があります」と言うよりも「このコーヒーメーカーを使えば、あなたは豆を挽く作業と内部の洗浄作業から解放されます」と言いましょう。
Incongruity(意外性)
「Incongruity」は、意外な事実や出来事に相手の注意が向いているうちに、本当に伝えたい内容を話してしまうことです。
人は予想外のことや未知の内容に触れたとき、思考が一瞬停止します。「へぇ〜」と思わせた直後は主張が通りやすくなります。
一般的にはあまり知られていない情報を、できれば根拠とともに小出しにできれば効果的です。「そんなことがあるんだ。それはすごい」と相手に思わせられれば、ここの要素はクリアです。
Confidence(自信)
「Confidence」は、自信満々に語ることです。
あたりまえですが、自信のない人の説得を誰が聞き入れるでしょうか。かといって虚勢を張っても案外見透かされるものです。自信というものは自分の中に裏付けがあれば、より強固なものとなります。
たとえばプレゼンテーションをしなくてはならないとき。「何を言えばいいか忘れてしまったらどうしよう」という不安は、つきものです。こうした不安は緊張を呼び、自信を揺るがします。
1つの対策として、最初の「Simplify」でメッセージを単純化し、伝えたい核となるものを意識します。核を作り上げ、そこからメモリーツリー方式に覚えると忘れにくくなります。最初の「Simplify」は、自信の裏付けにも寄与します。
また、保険として完璧な台本を用意しておくなどの手も良いでしょう。
Empathy(共感)
「Empathy」は、共感を入り口にして説得することです。
脳の仕組み上、感情を伴った出来事は非常に記憶に残りやすいものです。はじめの段階では質問をして、相手の気持ちを探ります。そして引き出した相手の感情に対して、あなたが先に全面的な共感を示します。
そうすると、相手がしてくれたことは自分もお返しにしてあげたくなるという「返報性の原理」が発動し、相手の心にもあなたへの共感が芽生えます。